千 年 の み ち

“渡り鳥” が描く今と未来               たちばなマルコ

 来る道、行く道 < 薬師 :ベトナム > 

      

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その光景を見て、通路を挟んだ向こうの席の若者が笑顔を向けた
窓側の席の大マスクの娘さんの大きく見開いた目玉も笑いをこらえている。

それは間違いなく、滑稽とも不思議ともいえる光景だからだ

ホーチミン髭のおっさんの肩に、妙齢の娘が頭を委ね、
すやすや眠っている光景をここベトナムの人はニコニコと眺めている。

こまるなぁ、誤解したら・・・・

メコンデルタの田舎町、カン・トーへ行くバスに乗ったときだ。
後から乗り込んだ娘の物憂げなまなざしと目があった。
切符を切った運転手は私の横の席だと娘にいった。

発車した長距離バスは、結構いい道になっているのを幸い、
バイクをスイスイ追い抜いて行く。
3分も経った頃、マルコの肩に娘が頭をそっと載せてきたのだ。
おや?

マルコの頓狂な顔をみて先ほどの若者達が笑ったのだ。
周りの反応に気づいて、娘はキリリと頭を立てなおし
目をつむってしまった。

物憂げな気配はしんどいのか?
“いいよ”と目でいったマルコに、素直に応えて骨張った肩に
再び頭を委ねたのだった。

きっと車酔いで気分がよくないのだ。
車掌から受け取った袋に口をもってゆく。
そのあと、少し恥ずかしげに肩で眠る。

なむ、薬師如来と心で唱える。ナムとは、“あなたに委ねます”だ。
病苦のしんどさ、苦しみは充分わかっている  
娘は掌も委ねている。気を伝えるのには慣れている

友人の医者は、ブータンの旅先で人の病を治した。
その薬師如来ぶりを、感心して眺めていた。

マルコの肩は堅いけど薬師肩なら、これまたよし。
   息子や娘のような人々、ゆっくりおやすみ


      

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            南無薬師如来 柔らかな肩。。。。 お住まいは宝塚

娘は手を振ってにこやかに降りていった。
ベトナムのアナウンスは分からんかったが、
終着カン・トーについたのだった。

 

バス中では、一言も言葉は要らなかった