シャク
天気予報では明日からしばらく雨が降るというから、
午前の仕事を早い目に切り上げて山に散歩をかねて山菜とりをしようと準備した。
スクーターは阪神震災で避難している最中に手に入れたもので、
地球を一周以上しているわたしの旅伴だ。
ときおり方向指示ランプが切れたりはするが、
健康管理のすぐれたスクーターだ。
ホロを外して「さあレッツゴー!」とエンジンを入れたが
うんともいわない。 ?
仕方なしにキックで始動させようとしたけど、
ご機嫌がよろしくない。 そりゃご老体だしねぇ
五十回キックしたら汗をかきだしたのでコロナ風邪引くのもいやだからやめて、
何でも相談引き受けのSさんへ持ち込んだ。
径15センチほどはあろうか、みごとなタケノコを
はがしている最中だったSさんは、
おんなじスクータ-やねといいつつ充電してくれた。
昼ご飯を終え昼寝もして見にゆくと充電が終わったのか、
電池はきれいに元通りの足元に収納されて
済ました感じでスクーターがたたずむ。
無事に始動したマルコスクーターはゆるやかに寺町通りを平和町方面に駆ける。
「あんた、よく走ってくれるねぇ。すぐれものやな」などと思いつつ、
咲き終えた桜の大木通りを過ぎる。
陸上自衛隊基地を左にみながら通り過ぎると、すぐ右に見事なたたずまいの
金沢大学附属小学校がある。
入口も校舎も風格があって、どっしりした学舎だ。内容が最も大事だけれど、
学園がこのような瀟洒風格があると何かしらの大人(タイジン)を育てる役に立つだろうとふと感じた。
野田の交差点をさらにすすむと都会の喧噪など縁ない
田舎の別世界集落がひろがっている。
左側そして右また上を見ながらスクーターをゆっくり走らせる。
蕗のトウが隠れるほどふきの葉っぱも出て、沢山の野草が初々しい緑で芽吹き、
ここは少し高いせいか桜がちょうど満開で美しさを競っている。
さらにゆくと山桜がだんだん多くなり情緒豊かに風に揺れている。
春の風は心地よく少しひんやりしているが清々しい。
ふと見ると白い小さな花がつぼみの中に咲いている草がある。
生け花にしようと二、三摘んでスタートする。
この白い小さな花植物が先に画像で示した シャクという野草である。
姿勢正しく楚々としている
だんだんと竹の林が多くなりしばらく行くと筍を販売している店が左右に見える。
右の方に内川温泉と表示のあるところを通り過ぎ、さらに進むと右手におしゃれな会館のある内川墓地公園があった。墓地はサクラが多いものだから少し散歩して正座する。美しい景色が春の色を見て穏やかで静まり返っている。
この墓地から県道に出ず右の方に細い林道がある。ゆっくりと走っているとワンボックスの車が止まっているので道を尋ねようとした。
「ここを先に行くとどこに行くのですか」
ご主人「環境開発のゴミ処理場から小さな集落新保町があるんですわ」
車内には夫婦とみられるふたりがタバコを吸っている。
「ゆっくりと休憩ですな、よろしいなあ」
主「いやいや、電池が上がって助けの車が来るまで待っとるんです、あと30分ほどで来るんでしょ」
「そら大変ですわ、連絡取れてよかったですなー」
奥さん「助かりました」
この二人山菜採りにこの辺りに来て帰ってみたら
自動車が動かなくなっていたそうだ。
ご主人が言う「ちょっと早いけど今こしあぶらが美味しいんでっせ」
「何ですかそれ?」
主「それはタラの芽と同じように天ぷらにしたら美味しいんです」
奥さん「混ぜご飯にしてもとても匂いも味もいいですよ」
ご主人は時間がたっぷりあるので私を連れてコシアブラの採取の仕方を教えてくれる。なるほど可愛らしい芽が細い枝先についている。それをポキポキと折ってゆく。細い木から一番見事なてっぺんの芽を摘むのはかわいそうなので、横枝の芽を摘もうとすると
主「一番上の芽が一番うまいんです」
少々かわいそうな感じもしたが、てっぺんのも積んで袋に入れる
主「準備がいいですなあ、袋をあげようと思っとったんです」とほめてくれる
そんなかやで30-40分あちこち歩き回っておいしいいわれる
コシアブラの芽を15ほど手に入れた。
帰りは日が陰ってきて、寒くなったので途中カッパを羽織っていると
バッテリーが治った先ほどのお二人の車が手を振りながら通り過ぎていった。
夕闇の中、五角形をした大きなイノシシがのそのそと道を横切った。
マルコに似てほっそりしていた。
なんだかコロナの騒動から、ごく普通の和やかな金沢生活に戻ったようで
ほっとした一日だった。
もちろんコシアブラの筆状の若芽は天ぷらにあげて
美味しい春の味わいを堪能したのだった。
山菜の女王 / コシアブラ