千 年 の み ち

“渡り鳥” が描く今と未来               たちばなマルコ

 老いの慟哭-3  もういくつ寝るとお正月

 

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マルコの父上はやりたいことをなし終えて、
満足と平安に満たされた日々を送り
わずかな苦しい日々を経て善逝を全うしたといえましょう。

 

一方母上は動くこともままならない状態で長らく施設におります。

 

吾が父上や母上は約束をいつも守ってくれました。
ところがマルコは不肖者で、全ての約束を破ったのです。


これらは娑婆ではどうってこともないことでしょうが、
天に慚じてしまうのです。

 

宝塚で母上と暮らしていとき、寝床を整えていると

「マルコではありません」と
サラサラと裏に書かれた広告の紙が出てきました。
おそらく死んだときのことを思い、配慮しての書き置きでしょう。

青年時代には、どうして気づいたのか不思議なのですが、ガールフレンドと
まとまるようにとこっそり心配りがありました。
相手の母親にそれとなく探りを入れてくれたのです。

 

そうした母上という存在に一番の喜びを贈るには、
“頼む”のが一番でありましょう。


ですから危ないといってさせてくれない施設に道具を持ち込んで
「枕カバーのほつれ直してね」とか、「暑苦しいから散髪頼んでいい?」と
語りかけると最高に嬉しそうな顔をします。

その仕上げがどんなにクネクネ縫い目のお針子でも、
へんてこな虎刈りでも最上の散髪屋さん。

 

人生の冬をひかえても元気な頃、二つ目のよかれは
希望を叶えてあげることと思い立ちました。

母上はしばしば「お父さんはねアメリカが好きじゃなかったから、
ハワイへ連れて行ってくれなかったの」残念そうにいっておりました。

 

そこで大風呂敷好みのマルコは、「ジェット機を1台借りて
母上をハワイへ!」計画をたてました。
千年構想の実現のため始末生活しているマルコがです

 

当時ある外資系の銀行のプレミアの客になると、クレジットカードの特典で
300万円ほどでハワイへジェット機を飛ばせたのです。

 

ホノルルの「天国にふさわしい館」ハレクラニホテルに
一週間ほど泊まってくるという予定です。
ところが残念なことに、色んな事情でその銀行は
日本の支店を畳んで撤退してしまいました。

 

同時にジェット貸切でとあれこれ構想を拡げて考えているうちに、
母上はいつのまにか施設に送られてしまったのです。
縁がなかったのですね・・・・

 

しかたなく私が単独ハワイにゆきホテルの写真を撮ってきて
見せることにしました。

いまではバーチャル・リアリティーでプレゼントできるでしょうね。
実現は難儀でしょうけれど。
施設の事情はよく分かりますが、足こぎ車椅子コギーや
ウエラブルロボットを試させてといってものっけから拒否ですから



それはそうとして、これを皮切りに母との約束を
まったく守れなくなりました。

母上の世代は食糧難をくぐり抜けたので、なんの苦もなく
自給を生活に取り入れます。

そんな母上と一緒に庭を設計して、花と作物の花園にしてあげると約束しました。
ですから母上にとっては思い出と丹誠込めた自宅に帰ることが大きな望みなのです。

 

施設を訪問すると小さくなっている母上はこの時とばかり
本音を言います。今まで口にしたことのない愚痴です。

そして
「今は八朔の花が咲いてるわね。その脇のサクランボは
 孫のHのために植えたのよ 鳥が先に食べるからちゅういね。
 あんたちに美味しい桃を食べさせたくて植えた白桃はどう?」
などと自宅の話をします。

 

そして母上は耳と心に痛いことを必ずいうのです。


「今度はいつ家に連れて帰ってくれるの」
「これから連れて帰ってくれるのね」

 

それに応えるマルコは嘘ばかりいうのです。

「明日ね」とか「そう、一緒に帰ろうね」

すると母上の顔は喜びに輝きます

 

時折施設のベッド下に泊まるのですが、寝る前に
「明日一緒に帰ろうね。
 かえりに、好きなもの買ったげる」
とそれは楽しさ満悦で眠りに入ります。

 

その夜中に歌が聞こえたのです
♪も~ぅ い~くつねると、おしょうがつぅ~♪

♪おしょうがつにはたこあげてぇ~、
      こまをまわしてあそびましょ~♪

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あくる朝、約束を裏切ることになりますから、
家に帰りたい一心が別れをつらくします。

 

全ての力を込めた手で車椅子を回し突進して
エレベータへ乗り込まれようとするのです

「私も一緒に帰る!」
それを若い施設の人がグイと押しとどめる

 

母上の懇願のまなざしと、骨折だらけの不自由な手を折れんばかりに
力を入れる姿を振り切るかのようにドアは無機的に閉まります

 

いくたび悲しさや落胆の冷や水を浴びせたことでしょうか

 

 

さて、まるこが世間と争っている間にたくさんのご縁があり
また父と縁の深い金沢に引っ越ししました

その後すぐ母上は気が違ってしまわれたのです。

 

それはきっと、マルコがほとんどの約束を破ってしまい、
おまけに訪れる回数が激減したからでもありましょう。

 

施設も世間も安全を旨として、不自由な高齢者を外出させるのに
暗黙の抵抗をしました。介護タクシーもそっぽを向きます。
ただマルコの友人だけが帰宅の骨折りを手伝ってくれました。

 

曾野綾子身体障害者の“死んでもいいから”の望みを叶える
海外旅行を断行したニュースにマルコは拍手を送りました。

 

 

これからマルコは「もういくつ寝るとお正月・・・・」などと
口ずさむことはないでしょう

 

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