母上の誕生日祝いに出かけた。
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今年は大雨で、手にした黄色と紫の花も、
好物のバナナやお菓子なども濡れている。
ほんとは所望の焼き穴子ご飯でも作ってと思ったが、
施設の抵抗をさけ、別の日にこっそりする。
一年前、ウナギご飯を部屋でさし上げると目を輝かせた。
さて、来たことを告げると職員が出てきて消毒を促された。
まえもって所長とケアマネには伝えていたが、
受付は面会を告げると不思議な顔をする。
連絡は不徹底が常。
お!母上が車椅子に乗せられてやってくる
のが向こうに見えた。
それをいいことに当然のように個室に上がり込んで
手持ちのお土産のプリンと美味しいバナナを
テーブルに乗せて母上に挨拶をする。
「息子のマルコですよ、誕生日のお祝いに来ました」
と耳元5mmのところで低い声で伝える。
懐かしい母上の匂いだと思っていると
頭が素早く回転して鼻にゴンと当たる、アイタタタ
後にいる職員は「あ、頭突きです」と解説する。
ぴかちゅう ずつきは得意
わずかに聞こえる耳元で「はげたマルコが参りましたよ」
と語りかける。
息子だとは全然わからんのか、払いのけ手パンチを食わされる。
職員「あ、手が飛んでくるんですよね」
手パンチが顔や目に当たらないよう そっと腕をまわして
耳元にもう一度ささやく。
「誕生日おめでとうございます」
あれれあれれ、母上の歯が私の腕に刺さっている。
噛まれているのだ
職員「よく噛まれます」
歯は丈夫な母上の場合は刃物である。
私のも刃物である
「おすきな丸々太ったバナナ、黒スポットが出来てから
めしあがってね」と説明していると
「この禿頭め!!」のとどめの一言
職員「 ・・・・ (:クククク ) 」
しばらく挨拶をくりかえし語りかけていると、
厳しい表情が何かしら優しげにゆるんだような気がした
見送り不要ですというのに職員は出口まで
車椅子見送りをしてくれた。
禿げめ!といった母上の険しい顔もずっと優しそうになっていた。
いとまする背中にほんの少し微笑みを投げかけて
くれたように感じつつコロナの街に向かった
施設の向かいは葬式屋
お節介な世間は、母上を長生きさせて苦しめている
本人のしたいことを封じ込めて
いらんこといった