来る道、行く道 < 恋の逃げ道、荊みち >
夏だったろうか、祖母の生家に行ったことがある。
広島の竹原市だった。
旨い海の幸を食べて、食堂の座敷で昼寝した後、歩いて行った。
頼山陽の隣の家だというが、こじんまりとした古屋で、
頭を打ちそうな低さであった。
「昔のことなら檀家の寺に行ってみなされ」と
近隣の人が勧めるので、緑深い寺に行った。
そこで何を聞いたか忘れた。
しかしご住職との雑談の中で
「縁者の中での、道ならぬ恋に出奔した若いおなごがいての」
とぽつりと言った。
道ならぬ恋・・・・
きっと家と家の結婚を強いられ
夫とは心通わず、舅姑に冷たくされ
絶望の日々から逃れる道が
道ならぬ恋だったのであろう。
どうなったのですか?と問えども、
言葉を濁す住職。
石もて追われたに違いない。
縁者であった昔人の魂安らかにと
線香を点そう
道ならぬ荊道 荊帯