千 年 の み ち

“渡り鳥” が描く今と未来               たちばなマルコ

 老いの慟哭-1  序曲

 

  平安なくして
  喜びなくして
         なんの長寿ぞ

      ☆

 

長期出張するので、報告しようと母上に会いにゆきました

この一年半、ずっと気が狂って妄想に彷徨(サマヨ)ってられるのです。

 

それは長寿の老いによるものだけではなく
マルコが約束を破って希望を失わせたからなのです。

だから、一年半ほどはマルコを敵と見なしてられたんです。


長い長い夜の闇の中で叫びののしりが響きました。

「いやよ、あっちへゆけ」

「うるさい、うるさい、だまれ!!!」

「こんなところろくなことない!」

「くさい!やめて」
           延々と打ち寄せる苦の波打ち

 

マルコが肩をさすってさし上げると
体をこわばらせて

「しね、しね!」と
細くなった古木のような腕で払いのけられました。

 

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その時の顔はイカリと、深くも悲しい苦しみにみちておられました


体は骨と皮
逞しかった脚は見る影などどこにもなく
幾年も晒された枯れ木のようになりました。
 ・
 ・
 ・

マルコ、台湾高雄へまいります・・・と知らせに来た今日は

真っ赤で目やにまみれた開かない右目では見えないらしく
左の目をうっすらと開いてマルコへまなざしを向けて下さる。

 

いつもと違った穏やかな雰囲気を感じながら
聞こえやすい右耳もとでささやきました。

 

すると「マルちゃん来てくれたの!」と
分かってくれるではありませんか。

そして、「マルちゃん、いくつ?」としきりに尋ねられる。
指三本と五本を立てて示すとちゃんと分かったようで、
「35才になったの若いわねぇ」
「それにしては髪が白くなったね」とか、
「あ!禿げてる」とかいって笑ってくださる。

マルコ「そうなんよ、苦労が多いもんで」というと、

「私の少し分けてあげる」とか
「おどけているわねぇ」
「・・・」

 

今晩はなぜかにこやかで体から力を抜いて、くつろいでられる
独りごとのように「私のかわいい、むすこ・・・・」とつぶやくのです

 


母はいっ時でしょうか、大いなる母上に戻られました。

 

世のいたる所にいる見返りを求めぬ偉大な母上達であります。

台湾へ行くよといえずじまいだったのですが、
熱くなった目で伝えて翌日帰ったのでした。

 

父も母も微塵たりとも見返りを意識もせず、私たちを育んで下さった
つまり大いなる存在の父上であり、母上なのです

 


“老い”はどうしてそのような大いなる者達にも

苦の時間として覆い被さるのでありましょうか。

 

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          施無畏印   奈良国立博物館

              おそれを取り除く御手