千 年 の み ち

“渡り鳥” が描く今と未来               たちばなマルコ

 いさぎ女とねぼけ男  <果てしない好意の連鎖>

二十代だった
マルコは工場から、人事部へ異動した。

 

VTR(ビデオテープレコーダー)の設計は、TV事業部の屋上に付け足した
天井まで20-30mある広い場所だった。
生産ラインが隣にあって、活気に満ちていた。
冬は大寒気と雪が落ちてきて、
夏は雨しぶきと熱気が注いできた

 

先輩達は夜遅くまで残業し、「よい物、よい仕事を」と
精出す背を見て学んだ。

 

人事部に異動して驚いた。静寂が流れている・・・
おおよそ昼飯がお腹を満たした後、2時頃には
まぶたがどうしてもくっつきたがる。
先輩はいった「マルコ、修行が足らん。居眠りは目を開けてするんや」
練習はしたもののそのスキルは身につかなかった。

 

目はつむり、船をこぐとどこから見てもバレバレだった。
本部長が見て回り、その咳払いはよい目覚ましで、有り難かった。

マルコなりに悪知恵を働かせ、くくりつけた紐を前の女子社員に
しょっちゅう引っ張って起こしてもらった。

 

 

薫社長のところに時折、ご講話依頼やら幹部の一覧表を届けに行った。
どういう訳か記憶にないが、秘書の和美さんが印象に残った
取り立てて美形ではない。表現しづらいが雰囲気がよいのだ。

 

閑かさ一入のあるとき、社長室へ行った。
和美さんに呼びかけて緊張の趣そのままでいった。
「お付き合いしてくれませんか」

 

すると、目を合わせてにっこりいうのだった。
「もう少し早ければお付き合いできましたのに。
 実は・・・」と分かり易く語ってくれた。
面倒見のよい薫社長が販売会社の若社長と引き合わせて
婚約が決まっていたそうだ。
何のためらいもなく素直なそのいいようで、マルコは
なんだか清々しくなったのだった。

 

この後の事はブログしたかもしれない。

その日の午後は本部長でなく、かの人が目覚ましだった。
コツコツと軽やか靴音を立てて人事本部に来て、マルコの机で挨拶した。
「マルコさん・・・」  詳しいことは省く

 

さて、どうして?の謎が解けたから新発見を続ける

 

その後も社長ご講話をお願いするため、しばしば秘書室へ行った。
社員教育には特に力と時間を注ぐリーダだったから、しょっちゅう講話と面談の場を持って楽しみにされていた。

ただ、並びいる諸幹部はビクビクものだった。なにしろ経営をちゃんとしていないと爆弾が落ちるからだ。女遊びした幹部は首になった。
それほど厳しくしたので、社は抜群の経営内容となった。

 

緊張感に満ちた講話中、突然閑かになった。
社長がおっしゃる
「マルコ君、すまんけど眠らんといてなぁ・・・」
幹部達が船をこいでたマルコを一斉に見る。
苦笑いする社長に「はい!」と頭を下げる

 

なぜかくも厳し社長が穏やかに注意してくれたのか?
    ずっと、若い者には優しいのだ・・等と思っていた

夢で見たのはこうだ、和美さんが雑談でカクカクシカジカ・・と
社長に伝えていたのでは。
マルコの邪魔をしたと社長の負い目があったのかもしれない。
そのように、ハタと思い至ったのである。
すみません、社長

 

和美さんは若い販売会社社長の奥様になり、儲けがしらの若夫は

金めあての女と遊び、それを嫌い子供を連れてもどったという。

きっとうつつ抜かすと厳しき社長は、大いに叱責したであろう。

 

その社長は石油ファンヒーターの事故で死者が出て、悔恨の末社長を辞めて身を引いた。当事者は厳しさを恐れての隠し事、社長には事後報告しようとの魂胆だったに違いない。


中国国交回復で仰せだった。

「多大な賠償金放棄されたとは!みごと!そんな懐の深い中国の恩義を忘れてはならんよ」と。
マルコは今でも語りかける「ご立派でした、見習います」

 

このようなお人達の背筋の通った生き方は
男女の区別なく見上げたもので、爽やかになるのがマルコである。

 

虫の声響く夜に見た夢になぜか青春の一コマがうかび
そして明日を思う

こんな好意の人々のお陰で
男の一粒の種まき千年構想の企画にたどり着けたのだ。

 

些事は捨て、大計を練り上げる