エェ~ 夏によい怪談奇談を~
真珠採りのタンゴ リカルド・サントス楽団
この島に住むホトさんの話
∞ 人助けして呪われて
むかしむかし、といってもついこないだのことじゃ
沖縄をバイクでツーリングしている 時のことじゃワィ・・・
浜辺で休んでいる時、突然「助けてぇ~」と女の悲鳴が聞こえた。
どうしたろうと飛んでいくと、男が海で溺れている。
おれ泳ぎは全く得意じゃなかったけど飛び込んだ。
そして自分の命も危ない状態でなんとかその男を岸に引き上げた。
救急車なんぞが 慌ただしく来て病院へ運ばれていった。
翌日、病院へ見舞いに行ったんじゃ。
叫んだ奥さんが座っていてパンを食べようとしている。
「いかがですか」と言うと恐ろしい顔つきで睨みつけ、
一言もなくパンをつっけんどんに差し出したんじゃ。
奥さんの顔には溺れて死んでほしかった、
あるいは死ぬのを心待ちにしていたのではないかと
すぐにピンと来たなぁ
後どうなったか知らん、その顔は一生忘れんなぁ
∞
紀州の殺人事件は皆さんご存知だろう
金で釣り釣りしまくった爺さんがつった女は
餌を持ち去るどころか、命までも。
ある人はざまみろと思い
わしにはそんな悪いこと来んと一人よがりし
ちょっと年上のじいさんは「あんたきいつけ」と
いってくれる。
女はもっとうまくと思案を巡らす。
結束死(造語です)おフランスでは愛上死mort d'amourなら
遺産も保険金も合法的に手に入るのにね。
∞ 餓鬼
秋になると丹波の方の友人が黒豆を送ってくれる。
母の家の近所にバスケと名付けた小学生の坊やがいた。
懐いてくれているので、ちょっと来てくれ頼んだ。
すると友達の少女もついてきた。
「バスケ、これおいしい黒豆の枝豆。近所四か所に配ったって」
「はい」とうなずく。
友達の少女にも「あんたも小さいのを分けてもらい」と言ったら、
「わたし、いろんなものくれる人、大ぁい~好き」といって大きな枝を取る。
その時の顔、地獄絵に出てくるガキそのものだ。
口から2枚も3枚も重なった毒々しい色の舌がペロペロ
よだれを垂らしているさまと重なった
マルコは二度とこういう女にあげることはない
∞
元仲良しご夫婦のところに呼ばれていった。
奥さんは手料理がうまくて、多種多様なのが次々と魔法のように出てくる。
打ち出の小槌を振るかのごとく料理が顕れ、加えて
口から打出の小言がとめどなくでてくる。旦那さんへ飛んでゆく。
「ゴミはこうこう出さなければみんなに迷惑でしょ!」
「あなたは家にいたら友達いなくなるわ、どうするの!」
「あのグループの会合へ行ったらどうなの!」
「こんなところにぐずぐずして、台風が来るから
植木を部屋に入れと言ったのに入れてない!」
「そんなところに散らかして!」
「健康にいいからたくさん食べて、いつも残すんだから!」
「ボケて認知症になったら私どうしたらいいの!」
エスカレーターの安全アナウンスのごとくとめどない旦那さんへの愚痴は
響き渡って跳ね返りこっちも居づらい
そして打ち出の小言は、雷のようなのを吐き出した。
「相談もせず生命保険解約して!!
私いったいどうしたらいいのヨ!」
ココにも例の顔・・・地獄図にたんとあるなぁ
奥さんの自慢は持っている数ある不動産が値上がりし
収入が沢山あることである
∞
昔の上司はテレサ・テンの歌がお気に入り。
マルコにストリップ鑑賞マナーを教えてくれた。
奥さんは二十ほど年下だった。
酒好きだからその席で
「マルコ、家内はなぁ若いツバメを飼うとる」と淡々と仰せだった。
姑と折が会わなくて争いが絶えず、別居したとかも打ち明ける。
そういえば吾が病床に奥さんが見舞いに来た時、
燕くんがアッシーしてたな。気の弱そうな男。
俳句が得意でよく味のある色紙をくださったその上司は、
割と若くして召された。
酒をこよなく愛した善良なお人だった。
保険金を手にしてご満悦だろうね奥さん、たんと燕を飼える
∞
マルコは若い時から、女に面倒を見てあげると言われる。
面倒見る?なんじゃそれ?見る見ない別として、
身近にこんなことを見聞きするにつけ
「わたしゃ、自分で早よう死ぬ」と応えている。
初めて結婚式を挙げたお相手はんの家庭では
遺産の取り合いが常習化していた。
養子結婚式をトンズラして歯医者のかっこいい息子へ走った美形姉は、
そろりと実家に近寄り狙う。
正月は生きてる社長父の前で最終遺産話しで大いに盛り上がる。
マルコがヌルッと抜けたから末娘が養子をとって経営者に収まっている。
きっとあのてこのてで、つかみ合いしていることだろう。
三人娘に叩き込まれた呪いの言葉は、そう
「男に金もたせたらだめ、女に走る」だった。
人は思い通りにならぬと誰かれとなく他を恨み憎む
そして罪の石を積み上げる
神は罪を憎んで人々を憎まない (らしい)